一回戦 第2試合 来生涼子VS久藤 円 

 

scene #1

 「円さん、全力でいくからね。」

 「はい、涼子さん。わたしも負けませんから!」

 リング中央で握手する両選手。

 「各自、コーナーへ。」

 レフリーの指示のもと、各々のコーナーへと下がっていく2人。

 カァーーン!

 試合開始を告げるゴング音とともに、両雄共、コーナーから勢いよく跳び出していった。

 ガッ…ズシャッッ

 正面から組み合うと見せかけた来生は一転、久藤の足にカニ挟みを仕掛ける。

 「あ、きゃっ…」

 予想外の攻撃にたまらず転倒する久藤。その久藤の足をすかさず取りにいく来生…。

 オーソドックスな戦法で、確実に攻める来生。久藤の打撃技を警戒してか、まずは足狙いの様だ…

scene#2

 

「くっ!?・・こ、このぉっ!」

いきなり脚をやられるわけにはいかない。

必死にもがき、何とか脱出する久藤。

(このままじゃ向こうのペースになっちゃう。そうは・・・させないんだから!)

今度はこちらの番、とばかりに得意のロー、ミドル、掌打で攻め立てる。

しかし、来生はそれを巧みにかわし、久藤のリズムを崩していく。

まるで攻勢に出れず、焦る久藤。

(はぁ・・はぁ・・こ、こうなったら・・!)

フェイントのミドルを放った後、すかさずバックステップを踏んで間合いを取る。

「?」

一呼吸つくのか、と来生も間合いを取り直したその刹那、弾丸のようなタックルが来生を捕らえた!

「ぐっ!?」

「てやあああぁぁっ!!」

来生をマットに薙ぎ倒し、その脚を取りに行く。

早くもサソリを仕掛けるか、久藤。

が、果たしてそう上手くいくかどうか・・・

 

scene#3

 あまりにも勢いがあり過ぎた。

 タックルで倒された来生の身体は、もう既にサードロープの外に出ていた。

 ロープブレイク、二人はロープを挟んで立ち上がった。

 いきなり、久藤が来生の首を抱え込む。

 ロープ越しのブレインバスター、あるいはフロントネックチャンスリーを狙っているのだ。

 トップロープとセカンドロープを掴んで、必死にこらえる来生。

 久藤はセカンドロープを掴む来生の手を蹴りはらい、踏みにじって外した。

 そして、トップロープも...

 気がつけば、久藤は恐ろしく中途半端な体勢でロープの上に乗っている。

 だが、久藤は、その体勢のまま、強引に来生の身体を抜き上げてしまった。

 しかし、無理な体勢からの強引な引っこ抜きに、腰と膝が軋む。

 不安定な空中姿勢。

 段違いのロープから、まるで違う方向に反発力が伝わる。

 久藤、第一に、自分自身の受け身がとれるのか?

 高い弧を描いた二人の身体がマットに落ちて、撥ねた。

 二人とも動かない。

 ダブルノックダウン。

 先に立ち上がるのはどっちだ?

 それとも...

 試合の行方は、全く分からない。

scene#4

 意外にも先に立ちあがったのは、投げられた来生だった。

 「なんて無茶するの、あの体勢から投げるなんて・・・」

 白川の事ばかり考え、少々油断していたのかもしれない。

 久藤を見ると、ダメージが大きかったのかまだダウンしている。

 チャンス!フォール?関節技?それとも・・・。

 一瞬の躊躇、そして。

 「イチチチチッ、ちょっと強引だったかな?」

 頭を押さえつつ、ヨロヨロと立ちあがる久藤。

 「来生さんは?・・・いない?」

 「こっちだ!円ぁー!」

 「え?」

 振り向こうとした瞬間、背中に衝撃が走る。

 『紅の弾丸娘』の異名どおり、鋭いミサイルキックが久藤の体に突き突き刺さった!

scene#5

 

 

 「レフリー!、カウントっ!」

 「ワン、ツゥー…」

 すかさずカバーに入った来生だが、久藤もカウント2で返す。

 (…っう〜、先刻の無茶苦茶なバスター、まだ効いてるよ…)

 久藤をハイアングルのボディスラムで叩きつけながらも、時々くらっとくる感覚に来生は舌打ちしていた。

 (…でも……でも、やっぱ楽しいッ!)

 勝ちを意識し過ぎるあまりに、自分で自分のペースを乱していた来生だったが、

 久藤の真直ぐな、そして予想もつかない攻撃にワクワクしている、そんな自分を押さえきれなくなっていた。

 『闘るんなら、思いっきり!。そして、真っ正面からッ!』

 “弾丸娘”来生は、いつもの自分を取り戻した。

 「このォッ!」

 コーナーに久藤を振るや、ダッシュして追撃のドロップキックを浴びせる。

 更に蹴った勢いでバク宙を切り、続けてショルダータックルをボディに決める。

 ターンショット。

 跳び技を得意とする来生の連続技だ。

 「かはっ…」

 衝撃に久藤の身体が浮きかける。

 その久藤の身体をコーナーに抱え上げるや、来生はすかさずトップロープに駆け登った。

 「まどかぁ!、“投げ”ってのは、こォやるんだ〜ッ!」

 決めるッ!、来生は得意の変形フィッシャーマンズ・バスターで勝負に出た。

scene#6

 

 「かはっ・・」

 雪崩式変形フィッシャーマンズ・バスターをくらい、大の字になる久藤。

 目の焦点は定まっておらず、ピクリとも動かない。

 勝利を確信し、来生はすかさずフォールに入る。

 ワン!・・ツー!・・ス・・

 「う、うああっ!」

 しかし、久藤はカウント2.9でそれを跳ねのけ、雄叫びを上げて立ち上がった。

 「なっ!?」

 完全に決まったと思ったところを返され、呆然となる来生。

 「でやあああああっっ!!」

 「!?」

 その一瞬の隙に、久藤は来生のバックを取る。

 その刹那、来生は首からマットに叩きられていた。

 「くあっ!?」

 久藤のバックドロップは、クラッチの瞬間に投げに入っている「タメ」のない高速バックドロップで、受身が取り難い。

 しかもフィニッシュに使う際の一撃には捻りが加わっており、危険な角度でマットに叩きつけられる。

 「く・・ぅ・・ま、まだまだぁっ・・」

 しかし、この会心の一撃をもってしても来生は立ち上がった。

 (これで倒せないならっ!)

 瞬時に己の間合いを取り、腰を落とし、右脚に力を込める。

 「はああっ!!」

 勝負を決するべく、久藤は温存していた切札、右ハイキック「円圏斧」を抜き放った!。

 「うく・・あっ・・・」

 棒立ち状態の即頭部を蹴り抜かれ、来生は腰から崩れ落ちる。

 そこを薙ぎ倒すようにフォールに入る久藤。

 そして、レフリーの掌はカウントを三度打ち鳴らした。

             12分45秒

       ○久藤 円 (片エビ固め) 来生涼子●

 

控え室に戻ると…

「やっほ〜、元気だった?、りょ〜こッ。」

控え室に戻った来生を意外な人物が待ち受けていた。

「ル、ルミさん?…いつ、日本に戻って来たんです?。

確か中南米辺りに行ってたんじゃあ…」

「ん〜、帰ってきたのは今朝早く。

でもって、時間空いてたから観に来ちゃった。」

「会社には…」

「な〜んも連絡入れてない。」

「あぁ…マズイじゃないですか。ブレンダさん怒りますよッ。」

「あははっ、気にしない、気にしない。

で、試合の方どうだった?」

「あぅっ…負けちゃいました…」

「んな事、わかってるわよ。

観てたんだから。」

「へっ?!」

「他の団体の娘と闘って、ど〜だったか、ってのを訊いてるの。」

「…スゴイです、やっぱ。みんな『勝ちたい!』って必死ですから。」

「ん。で、『負けた』あんたはともかく、それはうちの白川にも言える事?」

「!…そ、それは…」

「ふ〜ん…ま、いいわ。

次の次だったわね、あの娘の試合。」

「ハ、ハイ。」

「それ観りゃ、わかるわ。

ん、じゃ、さっさと着替えなよ。特等席で『かぶりつき』よ。」

「…ルミさぁん。言葉使いが下品です。」

「そぉ?。先刻、『やっぱりあんたにも!』って、慌ててそこに薬置いてったパープル・ナースの娘よりはマシだと思うんだけど。」

「『ぱぁぷぅ・なぁす』?…何です、それ?」

「…あんた、ホント、自然に喧嘩売ってるよね〜。」

「えっ…どこがです?!」

「自覚もないの…ホラッ、もう行くよッ!」

「あ、ま、待って下さいよ〜ッ。」

 


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