一回戦 第4試合 橋本真由美VS白川美紗

 

両者入場!

エントランスが静かに開く。

そして1人の選手が、セコンドを従えリングに向かう。

静かに、そして滑る様に…。

 

その姿に観客は息を呑む。

アクセントの紅以外は、全て純白。

そう、純白の乙女を想わせる女性が今、ロープを飛び越えた。

 

ふわっ…タッ。

 

猫科の獣の様にしなやかに、その身をリングに引き入れると、

勢い良くマントを跳ね上げる。

途端、静まりかえっていた会場が喚声に包まれた。

 

『血塗れの白百合』…白川 美紗入場。

会場全体に今は無きバンド「サクリファイス」の曲が大音量で流れている。

メジャーデビューせずCDも発売しなかった為、

この曲を聴くためだけにプロレスを見にくるコアなファンがいるという。

橋本が入場口から出ようとしたが、不意に後ろから抱き止められた。

セコンドの野上理恵だ。

「あの白川って人、すごい危険な匂いがする・・・、気をつけて・・・」

「だ〜いじょ〜ぶサ〜。

こんなにお客が入ってるライブは初めてなんでね、

 オモイッキリ暴れてくるよ」

そう言うと入場口を飛び出し、リングにむけ走り出した。

 

scene #1

入場とコールが終わり、リング中央に立つ白川と橋本。

海原レフェリーがボディチェックをしている。特に白川は入念に調べられた様だ。

 カンッ!

ゴングが鳴らされ誰しも壮絶な試合が始まると息を呑んでいたが、どちらも動かず睨み合っている。

橋本は殺気だった目でいるが、白川はそんな事おかまいなく優雅にたたずんでいる。

「あなたは勝てないわ、だって・・・弱いんですもの・・!」

その言葉に逆上した橋本は白川に掴みかかるが・・

 

scene #2

 

橋本に掴まれても悠然としている白川。

リング上とは思えない優美な姿だ。

そんな態度が気にいらないのか、橋本は・・

ゴツゥ!

会場にものすごい音が響く。

無防備な白川の頭に頭突きを当てていた。

流石の白川も鋼鉄と言われる橋本の頭には敵わなかった様で、ダウンしてしまう。

その隙を見逃さず馬乗りになると、白川の顔面に橋本は何度も拳を振り下ろした。

「ストップ!ストップだ橋本ぉ!」

あまりの激しさに二人を引き離す海原レフェリー。

白川を見るとどこか切ったのか、血が流れている。

「だいじょうぶか白川?やれるか?」

「・・・どけっ・・!」

そう言うと海原を押しのけ橋本に向き直った。

scene #3

「ふふッ…この程度?、やっぱり、わたしの相手じゃないわ…」

口元の血を手で拭いながら、白川は小さく嘲笑った。

「だったら、もう一度喰らってみなッ!」

怒りに我を忘れ、橋本は再び対峙した白川に向かってとびかかる。

その時、

ヒュッッ…ガッッ!!

鞭のようにしなった白川の拳が、カウンターで橋本の頭部を捉えた。

頭部に受けた衝撃に、橋本がたたらを踏む。

…いや、額を押さえながら、膝をついた?!

ボタボタボタッ…

押さえた橋本の額から紅いものが滴り落ちる…

白いマットに朱の華が鮮やかに咲き乱れた。

「…くッ…し…らかわ…て、てめぇ…」

橋本が呻く。

どこに隠し持っていたのか、

白川の右手には釘のようなものがしっかりと握られていた。

「!!…白川、反則よ。凶器を寄越しなさいッ!。」

「ノォー、ノォー。」

凶器を取り上げようとするレフェリーの海原と、

白々しいアピールをする白川とが激しくもみ合う。

(くッ、スカシ野郎ぉ!、これでも喰らいやがれッ!!)

今、白川の意識はレフェリーの方に向いている…

そう判断した橋本は立ち上がるや否や、

お返しとばかりに白川の後頭部目掛けて、

必殺の豪腕ラリアットを放っていった。

「ふふッ…」

しかし、インパクトの寸前、

小声で笑うと白川はすっと身を沈める。

「なッ!」

「がっ…!!」

橋本の放った豪腕ラリアットは、

白川の頭を掠めてレフェリーの海原に誤爆。

…その壮絶なパワーに、海原はリング下に転がっていく。

「し、しまっ…ぐっ…」

さらに橋本の声が、途中で途切れた。

誤爆に慌てロープ際に駆け寄った橋本を、

白川は後ろからスレッジ・ハンマーで叩き伏せたのだ。

「くすくすッ…ヒール同士、レフェリー抜きで愉しみましょう…」

凶器をリングの外へ無造作に放り投げると、白川は無邪気に微笑む。

そして…

scene #4

何だ、もう起きてきたの?

意外に橋本のラリアートってショボいのね...

 

すでに、橋本は、大量の流血と完全にチョークに入った首四の字に動きが止まっている。

白川も先程のヘッドバットと馬乗りパンチの傷がまた開いたのか、出血が始まっている。

 

橋本の反撃はあるのか?

そして、それは、さらなる大流血戦の始まりなのか?

scene #5

「ふん・・」

反則カウントを高速で取り始めた海原を睨みつつ、白川は首四の字を解いた。

離れ際にしっかりと橋本の顔を踏みつけながら。

「橋本、立てるか?やれるね?」

白川を押しのけ、橋本の顔を覗き込む海原。

「・・・・」

「橋本?・・ぐっ!?」

しかし、海原を待っていたのは橋本の豪腕の一撃だった。

「あ、あんた・・ね・・」

またも不意の一撃をくらい、よろめく海原。

「おらあっ!!」

「くっ!?こ、このっ!?」

すかさず橋本はよろめいた海原もろともに白川にタックルをしかける。

「ぐふっ!?」

白川が反射的に振るった拳は、正確に海原の顎を打ち抜き、薙ぎ倒す。

「もらったぜっ!!」

しかし、次の瞬間には橋本の拳が白川の顎を打ち抜いていた。

「!?・・か・・はっ・」

唸りをあげる豪腕の一撃に吹っ飛ぶ白川。

「さぁてと、しっかりとお礼参りさせてもらうぜ?」

そして、橋本の凄惨な逆襲が始まった。

倒れた白川の顔面をすかさずサッカーボールキックで蹴り上げ、

顔面に拳を嵐のように叩きこみ、容赦無くストンピングを入れていく。

髪を捻り上げて引きずり起こし、顔面へと膝をぶち込み、

腹へ爪先を何度も突き刺し抉りこむ。

「ぐ・・ぅぁ・・」

小さく鈍い悲鳴にも似た声を上げる白川

「プロレスだからな。ちゃんと技極めないといけないよなぁ?」

完全に主導権を握った橋本は、パイプ椅子へ垂直落下式ブレンバスター、

続けて垂直落下式DDT、ぺディグリーと続けざまに仕掛け、

一気呵成に白百合を蹂躪する。

怒涛の猛攻の前に顔面は真っ赤に染まり、白いコスチュームを鮮血が汚していく。

反撃はおろか立ち上がる事も出来ず、マットへと沈む白川。

「さてと、生意気なお嬢には、ちょいとヤキをいれてやらないとな」

大の字に倒れる白川を見下ろし、橋本は口元に小さな笑みを浮かべた。

顔面を真っ赤に染めた白川を引きずり起こし、コーナポストへと寄りかからせる。

そして自分はコーナーへと登り、膝を白川の後頭部へとあてがった。

「行くぜぇっ!!!」

咆哮と共に舞う橋本。

そのまま、全体重を乗せて白川の顔面をマットへと叩きつける。

カーフ・ブランディング、子牛の焼印押しが炸裂し、鮮血が飛び散り、鈍い音がマット上に響く。

「いい格好だな、白百合のお嬢さん」

土下座のような格好で倒れ伏す白川の頭を踏みにじりながら、

橋本は高々と右腕を突き上げた。

 

scene #6

「ぐうぅ・・うぅ」

橋本の足下で白川が唸る。

「フン、まだ生きてたか。なら・・」

白川を立たせ、組みつくと、

「アタイのボムは天国行きの味だよ、試してみるかい?」

モチロン返事は聞かずに白川の体を持ち上げると、ありったけの力でマットに叩きつけた。

バシィィーン!

リングに穴が空くほどの音が響くと、すかさず橋本はフォールにはいる。

 

「オイッ、フォールだよ、カウントしろよカウントォ!」

あまりの凄惨さにあ然としていた海原だが、橋本の声に我に返り、腕を上げる。

 

「ワ、ワン・・ツウー・・ス・・」

 

誰もが決着だと思った瞬間、白川の肩が上がる。どよめく会場。

もう一度ボムを打てる体力は残ってないかもしれない。橋本の顔に焦りの色が浮かんでいた。
 

scene #7

インターバルでも取るつもりなのか、するりと体を返すと、白川が場外にエスケープした。

「逃がすかよッ!。」

手負いの相手を追って、橋本もリング下に飛び降りる。

(ナニが『血塗れの白百合』だよ…血マミレになって沈むのは、てめえの方だッ!)

…が、

「くすくすッ…」

場外で、白川が小さく嗤っていた。

右手には、血のついたメリケンサックを嵌めて…

そしてその足下には、橋本のパートナー、野上理恵が倒れ伏して…

「まさか…て、てめぇッッ!、理恵は、理恵は関係ねぇだろうがッ!」

怒りのあまり、紅き戦士が咆えた。

「うふふ…そうね。…わたしにとっては、確かに…そうよね。」

血を滴らせ無邪気に微笑みながら、白百合は足下の野上から橋本へと視線を移す。

「…でも、あなたにとってはどうかしら?。」

その笑みが邪悪なものに変わる…と同時に、朱に染まった野上の顔を更に踏みにじった!

「!!…てめぇッ、ぶっ殺してやるッ!」

噴き上がる怒りを押さえきれず、橋本は白川に掴み掛かった。

しかし冷静さを欠いたその動きを、凶気の牙が見逃す筈が無かった。

…ガッッ

カウンターで放たれた白百合の凶拳が、紅き戦士の顔面をモロに打ち砕く。

ズ…ムッッ!!

更に反対側の拳が、反動で伸び上がったボディに深々と喰い込んだ。

「か…はッ…」

受けた衝撃と共に、橋本の足はもつれ、そして膝から崩れ落ちる…

「くすくすッ…もう、お終い?…。」

耳元で白川の嗤う声を聞いた…と思った途端、橋本は髪を掴まれ、鉄柱に何度も叩きつけられた。

ゴッ…、ゴッ…、ゴッッ!!

腕でカバーする暇すら無かった。鉄柱に、自分の血の刻印が何度も刻まれていく。

「ほらっ!」

再び髪を掴まれると、無理矢理に引き摺り起こされ、今度はリング内に力任せに押し込まれる。

「…く…ッそ…ぉ…ッ…」

力がまるで入らない…。朦朧とする意識の中で、橋本は立ち上がろうと必死にもがいた。

しかし…

「…ほ〜ら、やっぱり弱かった。」

逆光で表情の見えない白川の嘲笑う声が、再び耳朶を打つ。

「な…に、…て、…てめ…ぇ…」

呻く橋本に、

「そう言えば、生意気なお嬢に『ヤキ』を入れてくれたんだっけ?…」

静かに、優しく、耳元で囁かれる甘い声。

「じゃあ、わたしは、あなたを逆に『シメて』あげるわ…」

嬲る様に、ゆっくりと、技が極められていく。

そして…

「大事なパートナーと一緒に、ゆっくり『お・や・す・み』なさい…。」

そう囁くと血に塗れた白百合は、絡みつく大蛇の如く、

抵抗すら儘ならない獲物を一気に締め上げた。

「!!、ちょっ…ス、ストップ、ストップだ。白川ッ!。」

これ以上は危険、と判断した海原が、慌てて試合終了のゴングを要請した。

カンカンカンカン…ゴングが何度も打ち鳴らされる。

レフェリー海原が…駆け上ったセコンド陣が…意識を失ってしまった橋本を、

技を極め続ける白川から必死に引き剥がそうとする。

しかし血塗られた白き腕(かいな)は、そんな橋本を決して離そうとしなかった。

まるで愛しいものを抱くが如く…

● 橋本真由美(15分32秒 サーペント・スリーパー)白川美紗 ○

 


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